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香川医療生活協同組合

アスベスト被害と診療現場(その2)

(第454回 10月07日 )

 「働くもののいのちと健康を守る全国センター」が発行する季刊誌「働くもののいのちと健康」2011年夏季号(No.48)の「診察室からみた労働現場」に掲載された文章の後半です。一部修正しています。

 さて、忙しい外来の中で、こういった患者にどうアプローチするかが問題です。

 そもそも多くの医療従事者は私を含め、労働現場をみたことがありません。「ドンゴロス」といった言葉を聞いても何のことかわからない職員も沢山います。電気洗濯機しか知らなければ、労働者の作業服を洗っていた妻がアスベスト被害にあったといっても、チンプンカンプンです。

 労働現場や生活実態を知るには、労働者から聞くのが一番です。ドンゴロスは麻でできた袋でアスベストが中に入っていて、肩で担いでいたのでアスベストの繊維が皮膚に刺さって痛かったとか、アスベストの繊維がたくさんついて真っ白になった作業服を手で洗っていた、という話をきちんと聞きだして初めて、「問診」といえます。患者や家族から、労働実態や生活の現状を教えてもらうのが問診なのだ、という姿勢が大事だと思います。

 先に述べた労災認定1例目の方も、我々が「単なる」肺がんで死亡したと考えていたところ、妻が「水道工事をしているいとこから石綿が肺に悪いと聞いたが、夫は石綿による肺がんではなかったのか」という相談があったのがきっかけでした。「医療生協の患者の権利章典」でいえば、まさに患者・家族の医療への「参加と協同」によるものでした。

 アスベストの特徴は、ほぐすと糸や布に織れるしなやかさがありながら、燃えず腐らず、引っ張りに強く保温性があり、かつ安価に入手できたため、戦後日本経済復興の重要な資材として、自動車を初めとする各種産業機械のブレーキや、工業用建築物、住宅用資材の屋根材や壁材などに利用されて来ました。

 要するに何にでも使用されていると考えたほうがよいということです。さまざまな問診票がありますが、率直にいって臨床現場で役に立つものは少ないと思います。

 労働環境についても、ほこりやよごれが「悪」である清潔な医療機関で働いていると、想像力を目いっぱい働かせても、現実の労働環境は理解できません。

 「結晶した石綿を、1階の直径2メートル位の石臼で砕き、3階のボックス(8畳間位)にパイプを通して吹き上げる。箱に溜った石綿を、スコップで高さ1メートル、直径70センチメートル位の籠に入れる」「マスクをしていては仕事ができないので、時々はずす。部屋の中はすごいほこりで、特にスコップで石綿を籠に入れる時はひどい。髪の毛、服は勿論のこと、マスクをのけると鼻の穴まで白かった」

 これは、労災申請時の書類からの引用です。一度にここまで聞くことはできなくても、労働実態に相当細かい点まで注意を向ける必要があります。

 この間、石材産業の盛んな高松市庵治町でのじん肺患者への取り組み、エタニットパイプのアスベスト被害の取り組み、神島化学のアスベスト被害の取り組みを継続的に行ってきました。

 上記3つの事例の特徴は、各事業所で働く労働者が事業所からそう遠くない地域に住んでいたことです。地域の主要産業であったということだと思いますが、集中的に地域訪問する、じん肺・アスベスト相談会を行う時でも、特定地域を指定して新聞にチラシを入れると折り込み費用も安価で済む、という利点もありました。

 全日本建設交運一般労働組合(建交労)と共同して取り組みを行い、チラシを入れる、相談会を行う、相談会に来た人には症状があれば受診を勧める、症状がなくても香川医療生協の病院や診療所の存在を知らせ、何かあった時には相談できるようにしておく。

 こういった取り組みを年に2回行ってきたこと、その中で労災認定に結びついたり、他の疾病を発見し早期治療につなげるなど、目に見える結果を出してきたことなどが、「患者紹介」という形で、さらに埋もれた患者を見つけ出すことにつながってきました。

 診察室での「目と構え」を大事にしながら、日常診療に取り組んでいきたいと思います。


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