降圧剤「ディオバン」問題についての見解
2013年9月20日
日本医療福祉生活協同組合連合会
会長理事 藤原 高明
ノバルティスファーマ社が製造・販売している降圧剤「ディオバン」(一般名バルサルタン)に関する論文に不正があることが報じられています。さらに、その論文の結果を、医師等に対する宣伝活動に用いたことが大きな社会問題になっています。
現在、報道等によって明らかになっていることは、研究データの改ざんが行われ結論が大きくゆがめられたこと、ノバルティスファーマ社の社員が、他の大学関係者の肩書を用い論文の執筆者に名を連ねたこと、さらにこれらの「研究結果」を用いて医師など医療関係者に対する宣伝活動に用いたことです。これらの行為は決して許されるものではなく、事実関係のさらなる解明や、関係者の社会的責任について明確にする必要があります。
今回の事件は、医師主導型臨床研究における不正でした。医師主導型臨床研究とは、製薬会社が行う治験や臨床研究と異なり、製薬会社から独立した研究として、公正性、公平性が要求されますが、この点で医療関係者や患者の期待と信頼を裏切ることになりました。
医師主導であれ製薬会社主導であれ、研究結果は種々の「ガイドライン」に採用され、医師が薬剤を処方する時の動機となります。この仕組みに問題がある訳ではありませんが、その根拠となる研究に不正があれば、結果として医療
全体に対する不信感を増長することになります。
「臨床研究」については、2003年に厚労省が「臨床研究に関する倫理指針」を作成しました。例えば、「倫理指針」では、「資料等」(検査結果などの診療情報を含むとされる)は「研究結果の確認に資するように整然と管理しなければならない」となっていますが、関係者の報告書では、カルテが保存されていないと記載されており、この「指針」に反しています。
また、研究者と製薬業界との関係でいえば、利益相反を開示する問題があります。今回の事例でいえば、多額の「奨学寄付金」の提供があったことについては公表されていませんでした。
また、研究対象となる薬剤は新しい薬剤が大半で薬価は高く、ジェネリック製品の存在する比較的安い薬剤が研究の対象になることは少ないのが実態です。そのため、結果として「高薬価構造」に「臨床研究」が組している現状があることも注視する必要があります。
製薬業界は、会員製薬会社における法令遵守の徹底を図るため「製薬協コンプライアンス・プログラム・ガイドライン」を作成していますが、一層のコンプライアンスの確立が求められます。
こういった社会的に問題が明らかになった薬剤の処方については、事実関係についての十分な説明が重要です。患者さんに薬剤の変更希望があるときには、同種薬剤に変更した場合は薬剤料の自己負担が増える場合があること、変更した薬剤の副作用についても十分な説明を行い、納得のいく医療を重視する必要があります。
私たち、医療福祉生協は、地域住民と医療や福祉の専門家が協同する組織として、今回発生した「ディオバン」の問題について、「いのちの章典」の「自己決定に関する権利」を尊重し、「私たちは、知る権利、学習権をもとに、自己決定を行います。」という立場から、高薬価構造を生む制度の学習改善運動と患者個々の事例に対する対応をすすめていきます。
以上